映画「少年メリケンサック」について

映画「少年メリケンサック」は2009年2月14日に公開された映画です。脚本家や俳優として多彩な分野で活躍する宮藤官九郎の、監督2作目となる本作。ハイテンションなOL役を、話題作への主演が続いている宮崎あおいが体当たりで務めたコメディーです。粗野で汚いオヤジ4人の問題だらけのバンドを引き連れて、全国ツアーに出る事になった契約社員の主人公が、様々な苦難に巻き込まれながらもバンドとともに成長していく姿をコミカルに描いています。彼女を振り回すオヤジバンドのメンバーには、佐藤浩市、木村祐一、田口トモロヲ、三宅弘城と演技派俳優たちが揃ったほか、ユースケ・サンタマリア、勝地涼、田辺誠一など豪華な俳優陣が脇を固めています。

ストーリー(ネタバレ)

新人バンド発見!

レコード会社で働く契約社員の栗田かんなは、ある日動画サイトに投稿された新人パンクバンド「少年メリケンサック」を発見します。彼らの破天荒なパフォーマンスを社長に売り込めば、契約期間を伸ばしてもらえるかもしれないと考えたかんなは、さっそく社長にその動画を見せることに。しかしかんなの働くレコード会社はいわゆる「なごみ系」のバンドと「TELYA」というビジュアル系シンガーソングライターを扱うレーベル。パンクなんてもってのほかかと思いきや、意外にも社長は彼らの動画に興味津々です。実は社長自身も元はパンクバンドを組んでいたというのです。社長はかんなにすぐに彼らと契約を結ぶようにと命じます。かんなはバンドリーダーであるアキオが、高円寺の居酒屋にいるという情報を得てすぐさまそこへ向かいます。しかし、そこで待っていたのは飲んだくれでやさぐれた中年オヤジでした。なんとサイトにアップされていた映像は彼らが25年前に出演したライブの映像だったのです。動画とはあまりにもかけ離れたアキオの風貌に、かんなは諦めモード。しかしそんなかんなの元に社長から電話がかかってきます。自社のサイトにアップした例の動画が10万回再生される大人気となり、次々に地方のライブハウスから出演依頼が来ているというのです。もはや後には引けなくなったかんな。そんな彼女にアキオは、意外にもバンドを再結成してもいいと言います。その代りオリジナルメンバー全員を集めろというのです。仕方なくかんなはバンドもう一人のメンバーでアキオの実の弟・ハルオの元を訪れます。ハルオは田舎で酪農を営む人柄の良いおじさんでした。しかしアキオの名前を出した途端、ハルオの表情が曇り、態度は急変します。実はハルオとアキオの間には修復不可能なほど深い溝が生まれていたのでした。「あいつとは絶対にやらねぇ」と啖呵を切られ、終いには牛の糞を投げつけられてしまいます。

恋人・マサル

バンドメンバーは中年だし、糞は投げつけられるしで全くいいことがないかんな。そんな彼女を慰めるのはミュージシャンを志す恋人・マサルでした。マサルはかんなの事を思って書いたという曲を披露してくれますが、微妙に音が外れていてお世辞にも上手いとは言えません。そんなマサルですが、会社を辞めてやると泣くかんなに「今投げ出したら10万人の気持ちを裏切ることになる」と励まします。その言葉にもう少しだけ頑張る決意をしたかんなは、再びアキオの元を訪ねます。ハルオがバンドに参加する意思がないことを伝えますが、「オリジナルメンバーでなければだめだ」と譲らないアキオ。いっそ社長に会ってもらい、中年だということをバラしてしまおうと提案するかんなでしたが、アキオは「嘘はギリギリまで突き通すもの。その嘘がばれる瞬間におれたちが最高のライブをやれば嘘は嘘じゃなくなる」と言い放ちます。結局「奇跡を見せてやる」と意気込むアキオにかんなは丸め込まれてしまいます。

バンドの再結成

数日後アキオに指定されて用意したスタジオで、かんなはメンバーが来るのを待ちわびています。やって来たメンバーは痔持ちで座って演奏できないというドラマーのヤングと、妻に車いすを押されて入って来たボーカルのジミーでした。ジミーは喋ることもままならないようで、とても演奏できるとは思えない状態です。「ハルオは来るのかよ」とアキオに問われたかんなはあいまいな表情をするばかり。仕方なく三人で演奏を始めますが、それはもうひどい出来です。かんなはバンドの体たらくに激怒します。「こんなんじゃツアーどころか文化祭にも出れないじゃん!」と。そんな時スタジオに遅れてハルオが登場します。ハルオは自分のギターを取り出し、アンプにつなぎ始めます。ハウリング音が鳴ると、さっきまで車椅子でヨレヨレになっていたジミーが立ち上がり、マイクスタンドを抱えて歌い始めました。先ほどよりはいくらかマシになった彼らの演奏を聞いたかんなは、「なんとかなるかもしれない・・・」と淡い期待を抱くのでした。

ツアー開始

いよいよ「少年メリケンサック」のツアーが始まります。初日のライブハウスはチケット完売、長蛇の列が出来ています。さらには期待に胸ふくらませた社長までもが自らライブハウスに赴き、彼らの演奏を心待ちにしていました。ライブが始まり、出てきた少年メリケンサックのメンバーを見ると観客は案の定怒り出します。さらに演奏も下手くそで聴いていられないほど。社長も「中年メリケンサックじゃん!」と怒りを露わにしますが、かんなは嘘がばれることを恐れて既に逃走した後でした。これでクビになること確実、自分勝手なオヤジと行動を共にする必要もなくなると思ったかんなでしたが、既にツアーのチケットは完売しており、キャンセル料を払わねばならなくためツアーはこのまま続けるようにと社長に命令されてしまいます。仕方なしに実家の寿司屋のワゴンを借りてツアーを回ることとなったかんな。オヤジ4人は下世話な話をしたり、お漏らしをしたり、おならをしたりと傍若無人に振舞います。さらには、事務所のなごみ系バンドと喧嘩になり、警察沙汰に。それまで必死でバンドを率いてきたかんなでしたが、アキオに恋人・マサルのことをバカにされ、怒りが爆発してしまいます。ついにはツアーを放り出してマサルの元へと帰りますが、そんなマサルも彼女がいない間に別の女と浮気していたのでした。マサルのアコースティックギターを真っ二つに折り、別れを告げたかんなは再び少年メリケンサックの元へと戻ります。

ツアーの成功

一方そのころ少年メリケンサックのメンバーたちは、かんな無しでツアーを続けようと試行錯誤していました。しかし、目的のライブハウスに着く前にワゴンはガス欠になり、さらに道に迷ってしまいます。なんとかライブハウスを見つけたメンバーたち。演奏が始まったライブハウスにかんなが到着すると、ツアーを続けるうちに昔の感覚が戻ってきたのか、観客も盛り上がりを見せています。手ごたえをつかんだかんなの元にさらにうれしい知らせが舞い込みます。なんと少年メリケンサックにTV出演の依頼が来たというのです。大喜びのかんなでしたが、ステージ上ではハルオとアキオがなぜか殴り合いの大喧嘩をしています。二人はそれぞれ右手と左手を骨折する大怪我を負います。TV出演とツアーファイナルの東京公演を残した大事な時期に最悪の事態。かんなはこの最大のピンチを乗り越えるべく、ある奇策を思いつきます。それはハルオとアキオが二人で一つのギターを弾くというものでした。さらに、足りなくなったベースには、自身の元恋人であるマサルの頭をバリカンで刈り、モヒカン頭にして無理矢理参加させます。結果ライブは大成功。こうして「少年メリケンサック」は見事復活したのでした。

キャスト

スタッフ

音楽

劇中歌

感想

中年のおじさんが頑張る映画ってなぜか魅力的に見えるのは私だけでしょうか。普段はだらしなくても本気を出せば凄いんだって威張る人はあまり好きではないのですが、この「少年メリケンサック」のおじさんたちには何か不思議な吸引力があり、自然と応援してしまいました。きっと主人公のかんなちゃんもそういう気持ちが心のどこかにあったのでしょう。劇中では「パンクなんて嫌いだ」と豪語していましたが、彼らの魅力を一番理解していたのは彼女だったと思います。怒ったり笑ったり呆れたり泣いたりとクルクル表情が変わるかんなちゃんがとてもキュートでした。いつものおっとりした宮崎あおいさんではなく、少々ぶっ飛んだ役柄でしたが、さすがの演技力でしたね。おじさんの生尻を見せられても動じないあたり、肝が据わってて素晴らしかったです。また、パンクバンドのお話ということで色々なバンドの方がチョイ役で出演しているのも隠れた見所だと思います。若い頃のジミーを演じた峯田和伸さんは劇中の「少年メリケンサック」の曲を実際に演奏していて、とてもカッコいいです。滑舌が悪いせいで歌詞が「ニューヨークマラソン」に聞こえてしまうというくだりは個人的にかなり面白かったです。他にも在日ファンクの浜野くんや銀杏BOYZのメンバーもちょっとだけ出演していて、見つけるたびに一人で「おお!」と歓声を上げそうになってしまいました。音楽担当の向井秀徳さんも大好きなので、かなり私にはマッチした映画だったと思います。主役のみなさんはもちろんなのですが、私が一番笑ったのは田辺誠一さん演じるTELYAでした。ガクトさんみたいな容姿でロボットみたいに喋る田辺さんは面白過ぎました。こういう色んなところに笑いを散りばめる演出はやはりクドカンならではですね。かなりブラックな笑いもありましたが、それでも観終わったあとに爽やかな気持ちになるのはやはりクドカンの腕があってこそだと思います。佐藤浩市に下ネタを言わせられるのもクドカンだけではないでしょうか。ああいう汚いおじさんも難なくこなす佐藤浩市はやはり凄い役者さんだなと痛感しました。音楽と青春と中年のおじさんたちの生き様を、かっこよく描いた爽やかな作品でした。

パンクなあなたへ